2012年11月3日土曜日

偏狭むしろ笑ふべし

今年の回顧では早すぎるが、面白かったのは
芥川賞受賞の
田中慎弥氏の記者会見。
「もうやめましょうよ」のあの顔をいまでも思いだす。

ところで同時に発表されるのが直木賞。
その発表報道で面白いのは常に芥川賞が先にくること。

   第146回芥川、直木賞の選考会が17日、東京・築地の料亭
   「新喜楽」で開かれ、芥川賞は円城塔さんの「道化師の蝶」と
   田中慎弥さんの「共食い」、直木賞は葉室麟さんの「蜩ノ記」に
   決まった。(京都新聞2012.1.18

重ねて書くことも言うことも不可能なので、
どちらかを先にしなければならないのはわかる。
しかしなぜ、常に芥川賞が先にくるのか
1回から調べてはいないので断定はできないが、
例外なく「芥川賞、直木賞決まる」の順序だろう。

アイウエオ順だと言えばそれまでだが、
歴史的に早いほうが先になる可能性も無視できないので、調べてみた。
どちらも菊池寛が1935年に創設したのでこの推理はハズレ。

やはり、純文学の方が大衆文学よりエライという意識が
あるのではないだろうか。
演芸より文藝の方が優れているというのがわが国の伝統だから。

 

三越デパートが昭和9年に「文芸家遺品展覧会」を開いた。
文芸というから文学である。その出品内容について泉鏡花が
いちゃもんをつけた。それを聞き及んだ永井荷風が日記に記している。
 
   三越開催文芸家遺品展覧会に三遊亭円朝のものを出すがため、
   泉鏡花氏は先師紅葉山人の遺品は落語家のものとは同列には
   陳列しがたしとて出品を拒絶せしといふ。
   鏡花氏の偏狭むしろ笑ふべし。(『断腸亭日乗』

 

鏡花に限らず、こういうことにこだわる御仁はどこにでもいるのだな、
と可笑しくなる。ピンポンよりテニスのほうが上品だとか、
堤防釣りより渓流釣りのほうが格が上だとか、
とかく上下の区別をつけたがる人がいる。

鏡花先生も人の子、御多分に洩れないのが可笑しい。
落語より文芸のほうが優れていると怒ったのだから。
それを「偏狭むしろ笑ふべし」と一刀両断に切り捨てる荷風散人が痛快。
子供と大人の分別はかくも隔つものなのだ。

 

 藤本義一氏が「文学界」の新人賞に応募したが落選し、
直木賞でも選ばれない頃すでに放送作家として活躍していた。
ライバルの阿部牧郎氏に
「同じ作家でもアタマに『放送』がつくとアカンのや。認めてもらえん」
と言ったという。

 
 三島由紀夫は中央公論社版文学全集『日本の文学』全80巻に
松本清張をいれるなら自分は編集委員を辞めると言ったそうだ。
            (谷沢永一『紙つぶて』
 
嗚呼、偏狭なるかな。
 
 

 

 

 

 

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