2013年3月31日日曜日

ビルのほとり


歌謡曲の一節だけでその時代が浮かび上がり、思わず胸が熱くなる、そんな経験はだれにもあるにちがいない。『有楽町で逢いましょう』もそのひとつ。1957 (昭和32) 当時私は小学生でチャンバラゴッコに夢中だったからその時代は彷彿しません。この歌を聞いて彷彿するのはそれから何年も後の高校時代です。そのあたりのことはともかく、この歌の一節に気にかかる日本語があります。  

    あなたを待てば 雨が降る
        濡れて来ぬかと 気にかかる
     ああ ビルのほとりのティー・ルーム
     雨もいとしや 唄ってる
        甘いブルース 「有楽町で逢いましょう」
 

佐伯孝夫作詞の「有楽町で逢いましょう」です。どこがおかしいのだろうと、考え込むほど都会のハイセンス溢れるすばらしい歌詞です。比較のため石原裕次郎のヒット曲『夕日の丘』を聴いてみましょう。

  夕日の丘を 見上げても
   湖(うみ)の畔(ほとり)を訪ねても
     かいなき命 あるかぎり
     こころの傷は また疼く  (萩原 四朗 作詞)

現代日本語の「ほとり」は「沼のほとり」「河のほとりに」などのように「水」と関連して使います。

   水芭蕉の花が匂っている 夢見て匂っている水のほとり (『夏の思い出』)

ですから、建物の「ビル」に使うのはしっくりきません。しかし、広辞苑をみると「古き宮のほとり」が『源氏物語』にあるようです。佐伯孝夫がそこまで意図していたのかは知る由もありません。

立ち並ぶビル街でも川が近くにあればこうも言えるのでしょう。

  高校生の三人が学校の帰りに銀座に出て、京橋の畔にあった、いまはなきテアトル東京で映画を見る場面がある。   (川本三郎

これも奇しくも銀座が舞台です。それで(にわかに心変わりして)しゃれたティー・ルームはやはり「ビルのほとり」になくてはならないと思えてきました。だがしかし(ともち直して)「ビルのそばの」や「ビルのあたり」ではイヤだ。なぜって、このビルはどのビルでもよいのではなく駅前の「楽町ビル」か「あなたのいるビル」でなくてはならないから。つまり「宮」ということなのでしょう。 
 
 

永井荷風の『断腸亭日乗』大正七年十一月十五日には

   階前の蠟梅一株を雑司ヶ谷先考の墓畔に移植す。

とありますから、畔は必ずしも水とは関係ないようです。
 そういえば日本の愛唱歌の例を忘れていました。

   小諸なる古城のほとり 雲白く遊子(ゆうし)悲しむ   島崎藤村

  我も死して碑に辺(ほとり)()せむ枯尾花        芭蕉


比喩的に「周辺」の意味でも使われます。「シネマのほとりで」(山根基世『ネコのあぶく』)があるかと思えば、小説では荻世いをら著『筋肉のほとりで』という勇ましいのも現れました。さらにさらに京都の老舗「瓢亭」は「懐石料理 京・南禅寺畔」とうたっています。
ちなみにこの『有楽町で逢いましょう』は有楽町駅前にオープンしたそごうデパートのCM。そのそごうも消えてしまいました。

2013年3月29日金曜日

つばなれ


 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つ、とここまでは全部「つ」がつく。十以上は「つ」がつかない、つまり「つ離れ」。お客が一桁では情けない。せめて二桁のお客を前に一席ご機嫌をうかがいたいという、寄席の隠語。

一から十までの符牒は次の通り。

    一 へい     平の字の一から

 二 びき     反物2反を一匹という。

 三 山(さん)    字画が3画

 四 佐々木    佐々木家の家紋が4つ目

 五 片(かた)こ   片手の指の数

 六 真田     六文銭

 七 田沼     意次の七曜星

 八 八幡(はちまん)文字通りの八

 九 際(きわ)   10の際

 十 つ離れ

 

 つ離れを願うのはなにも落語家だけじゃない。ワタシだって、千円札でもらう小遣いの枚数のつばなれを願って、今日も女房のご機嫌をうかがいたい。 
 
 

補遺:こんな大切な馴染みのある「つばなれ」を国語辞典が収録していないのは怠慢ではなかろうか。あの広辞苑にもない。

2013年3月22日金曜日

江戸絵師の桜


 隅田川の川岸を墨堤(ぼくてい)といいますが、この墨提を葛飾北斎も安藤広重も好んで描いているそうです。北斎は32図。広重は40図。
 
 でも不思議なことに墨提の花見の絵は北斎は1枚、広重は2枚しか描いていないそうです。意外だと思いませんか。
 
 そこで、この二人の「浮世絵師が墨提の花見をなぜ描かなかったのか!」 の謎を考え、挑戦してみました。
 

答1 北斎も広重も花見にとんと興味がなかった。

 答2 二人とも花見が大好きだったが、なぜか、桜の季節に江戸にいなかった。

 答3 二人は雨男で花見を描きに行こうとすると決まって雨が降った。

 答4 二人は花より団子が好きだった。

 答5 二人の生きた時代はなぜか花見が流行っていなかった。

 答6 花見の絵は売れないので描かなかった。

 答7 美しすぎてどうしても描けなかった。

 答8 二人とも花見の宴会が大好きで絵筆が持てないほど酔っ払っていた。

 答9 付き合っていた女性が花見が大嫌いだった。

 答10 花見ごときに浮かれるなと親に遺言されていた。
 
                                                                                                         by Natuzora

さ~て、正解は?  

答2の「江戸不在説」が謎めいて面白いのですが、「答8二人とも花見の宴会が大
好きで絵筆が持てないほど酔っ払っていた。」が私は正解だと思います。だって、
北斎も広重も、桜の花を見てしらふでいられるような野暮ではないでしょう。絵筆
より盃を握ってしまう北斎・広重の方が身近に感じられます。花見酒大好きの私の
判断に間違いはありません。多分。

 

2013年3月19日火曜日

奥が深い

 しばしば「○○ってやればやるほど奥が深いよね」と人が言うのを聞きます。そうその通り、とあいづちを打ちますが、冷静に考えたら、この言葉何にでも使われて、世の中に奥が深くないものはない、というのが結論です。ではそのオンパレード。
 
(あいうえお順です)

アドバイス 
 
     同級生や同年代の友人、または年下の子に刺激を受けることもあるが、年上
   の方の経験談やアドバイスには、なんといっても人生の歴史があり、奥が深
   い勉強になし、ためになる。             (山本智恵子)

アワガタケスミレ

   アワガタケスミレのページを読むにつけ、その奥の深さを実感。       (中村『趣味の山野草』)

アラビア文字

   たった一つの文字を書くのに一生かかるほどアラビア文字は奥が深い。   (NHKアラビア語講座)

囲碁

   囲碁は奥が深い。一歩一歩探っていければ」と着実な成長を心掛ける。(一力遼)


   (「岸壁の母」は)戦地からの引き揚げ船が着く京都・舞鶴港で、帰らない息子を待つ母の心情を歌い、生涯の代表曲に。「無償の愛の尊さを学び、歌の奥深さを知りました」(二葉百合子)

奥深い美しさ 心癒す希望の歌「おひさま~大切なあなたへ」(京都新聞)

駅伝

   ドラマのコーチ役で陸上をかじったつもりでしたが(全国女子駅伝を見て)奥深さを実感しました。(松田悟志)

エッセー

   最近、本紙に映画作家・川瀬直美さんのエッセーが登場しないのがさびしい。(中略).彼女は市井の人の目線で書いているので、私の心にすっと入っていく。それでいて、なかなか奥が深い。(山根悠謳歌)

近江

   夫とともに一年かけてまわり、あらためて近江の奥の深さ、素晴らしさを味わった。(北脇八千代)

カレー

   大きくなってから、グリーンカレーやキーマカレーといったしゃれたカレーを知ったりして、カレーって奥が深いなと思うようになった。(川瀬直美)

懐石料理

   確かに、懐石料理には細かい決まり事もありますが、それに縛られるのではなく、もっと深いところで楽しんで戴いたらと想います。私は難しいことは言えません。懐石の奥深さを語るより、私の中では自然体であること、謙虚であることがたいせつなのです。   (高橋英一)

漢字」

今後、漢字の魅力と奥深さを、一般にどう伝えていくのか。(京都新聞)

監督業

41歳で迎えた今大会、選手と対話しながらチームをつくり上げるなど指導の幅が広がった。「(前回の優勝に比べ)重い。もう少し甲子園に居て、たっぷり感じたい」と監督業の奥深さを知って味わう勝利は格別だった。(京都新聞)

着物

和装の市場は「縮小しているけど、悲観はしていない。興味を持ってくれた人に着物の奥深さを伝え、和装復興につなげたい。(北川幸)

京都

平安期の庭園の趣を醸す積翠(しゃくすい)園は京都の奥深さを感じる場所です。(白幡洋三郎)

      私は京都生まれだが、本当の意味での京都の奥深さを知らない。(梅川尚英)

   僕は札幌生まれで、大学に入るんで京都に来たんですね。それ以来、長年住んでいますけど、いまだにあこがれがありますもん。厳しさも感じますが、それもまた、京都の奥深さですよね。(佐藤弘樹)

京都は光の当たる部分と当たらない部分がバラエティー豊かで奥深い。(杉本彩)

京のコミュニケーション文化

   粗野な言葉を避け、より上品に遠回しに表すのが京ことばの特色である。使われなくなった言葉も多いが、京のコミュニケーション文化は実に奥深いと思い知らされる。(凡語)

京都の庭

珍しい形の鳥居で面白い。京都の庭は凝っていて奥が深い。(丸山良子)

京都の文化

東本願寺の渉成園へ足を運びました。池を配した建物、木々の豊かな庭園に心癒され、京都の奥深い文化に感動しました。(田中將子)

京都の文化と観光

門川京都市長は調印後の会見で、「観光立国に向けて奥深い文化と観光振興のノウハウを持つ京都の責任は大きい。海外へのプロモーション能力がある官公庁との融合でわが国の閉塞感を打破したい」と期待感を示した。(京都新聞)

業務

入社1年目の毎日の過ごし方が、今後の成長にかかわってくると上司に言われたので、帰宅後毎日、業務に関係する書物を読みあさっています。学べば学ぶほど奥が深くて、過去の自分の浅はかさを感じます。(上田紗綾子)

金の魔性

   金(ゴールド)の大研究 奥深き「魔性」のすべて(週刊現代)


   「この生活をしているうちに草が好きになってきました。実は草が奥深いこともわかったし」と笑う。(草彅剛)

芸能という言葉

   その時、ぼくはまだ、芸能という言葉の奥深さを知らなかったのです。(本橋成一) 

経験談 → アドバイス

フォークギター

   フォークギター 気軽に始められて奥が深い魅惑の楽器。(ユーキャンチラシ) 

言語学

   言語学は、今後、人間考察学を支える重要な教養科目になると思います。言葉という現象は身近です。でも、とらえがたく、奥深い活動でもあります。(吉村公宏)

格子

   今までは、自分でデザインした格子を描いていたが、あらためて格子の奥深さに触れると、今後は、歴史を意識した格子も多く描いていきたいと思う。(京都新聞)

作務衣

   近年は、古布の柔らかさを生かした作務衣の魅力と奥深さに気付いた。

(京都新聞)

山菜

子どものころは大嫌いだった山菜の奥深さがわかるのは、年を重ねた証しだろうか。(菊田たきえ)


詩は身近であって、奥が深い。ぼくは、これからも、自分の変化に素直に向き合ったまま、あるがままに、時々の思いを詩に詠んでいきたいな、と思っているのです。(chori

時代劇

時代劇は、かつら一つとっても奥が深い。(京都新聞)

七福神

宝船に仲良く乗り合う姿を平和共存のシンボルとみれば、七福神もなかなか奥深い。(京都新聞)  

七宝焼

七宝焼きは同じ物が二つとできず、技法も奥が深い。(小林真紀)

書道

   書道は習えば習うほど奥が深く、これでいいということはない。(『暮らしの手帖』)

女優の仕事

「違う人生を生きている感じがする」という女優の仕事。その面白さと奥深さを実感している。(武井咲)


あらゆる事が電子の頭脳と機械の手でなされる便利な世の中だからこそ、墨の奏でる世界の優しさ奥深さを多くの方に伝え届けたい。(木積凛穂)

相撲

人情相撲、無気力相撲、出来山、片八百長など、その世界は奥深い。(小寺泰二)

性の世界

   私たちの理想のセックス 奥深き性の世界へ、ようこそ 特別対談杉本彩×杉田かおる (週刊現代)

鮮魚

俳優・杉浦太陽がさまざまな分野の専門家を4回にわたって訪ね、奥深い鮮魚の世界を極める。(NHK

煎茶

高級茶の「玉露」は、だしのようなうまみが舌に広がり、余韻がしばらく消えなかった。普通の煎茶は1煎目でうまみを感じ、成分が抜けてくる2煎目、3煎目はすっきりした味になる。身近にこんな奥深い世界があるのを知り、素通りしてきた不明を恥じた。(下前俊輔)

川柳

お叱りを受けるかもしれませんが、最初は「たかが川柳、されど…」と思っていました。1年たって、「されど」の後のなかなかの奥の深さが分かりかけたところです。(今川善次郎)

太極拳

「(太極拳は)簡単にしようと思えば気軽に扱えます。しかし、深めようとすれば、いくらで難しくなり、やればやるほど謎が深まります」と言い、奥深さが魅力になっています。(京都新聞)

宝くじ

宝くじは奥が深い。一攫千金を夢見る庶民の楽しみが、青海中で年間2000億㌦もの金を動かす。その収益は災害復興や橋の建設など公共事業を助ける資金になるが、詐欺や悪徳商法の犯罪と隣り合わせでもある。宝くじの隆盛は時代の変化を映し出す。(糸井恵)


早川茉莉編「玉子ふわふわ」卵にまつわる文集。(中略)卵の奥深さに触れた37編。(京都新聞)

茶業

茶園で汗をかきながら、土づくりや栽培方法を学び、茶業の奥深さを実感した。(京都新聞)

中国語

中国で権威のある茅盾文学賞を受賞した劉震雲さんは、翻訳では中国語の奥の深さは伝わらないと言い切る。(京都新聞)

ちんどん

みなさんをその(ちんどんの)奥深い世界へご案内したいと思います。(林幸治郎)

釣り

釣りビジョン」楽しく奥深い釣りの世界へご招待(ギャオ)

「お年寄りの芝居といえば、仲間でやるサークル活動のイメージがつよいですが、高齢者はもっと奥の深い、手応えを求めています」と原田一雄さんは力説する。(京都新聞)

天気図

「ひまわり」画像と並んで天気図も大好きだった。雲の画像に比べると天気図は明快である。低気圧は悪玉、高気圧は善玉、前線は低気圧の手下くらいに考えると小学生にも明日の天気が大体予想できる。一見無秩序に見える雲の画像が、秩序を法則に基づいた図に置き換わることに大いに感動した。これはなかなか奥が深い世界だと子供心に思っていたのだろう、いつしか天気の解説が出来るようになりたいと思いつつ、毎日の天気予報を見続けた。(棚木恒寿)

伝統

伝統奥深いからこそ前衛がおもしろい。(並木誠士)

豆腐つくり

  (豆腐作りは)気音や温度で味が変わる奥深さを知った。(京都新聞)

動詞型

動詞型の奥深さと面白さ(盤崎弘貞)

童謡の歌詞

   昔の童謡は、歌詞の奥が深く、もう自分勝手に深読みできるのでして、かつての戦後の焼け跡の、食うもの、着るもの、住む家もない暮らしのなかで、しかし、戦争から目ざめ、解放された自由の気をいっぱい吸いこんで、よし、新しく生き直そうと希望に燃えていた、あの時代が、いつのまにか、「屋根までとんで こわれて消えて」しまったのではないかと、逆コースくさい今日、腹立たしくもなるのです。(小沢昭一)

トランポリン

トランポリンは)思っていた以上に全身運動になりますし、やればやるほど難しさがわかる奥の深いスポーツです」。(藤嶋明子)

日本語

奥深き日本語の世界(サイト)

日本の人形

日本の人形のおもしろさ、奥深さをより多くの方に伝えたい。(岡本万貴子)

日本の文化

バックパッカーとして来日して21年。立ち寄るだけのつもりだった日本の文化の奥深さに魅了された。(ダイアン吉日)


能はまったく奥深い演劇であり、六年間研究し続けてようやく今、能が分かりかけた程度である。(梅原猛)

仏教

美術の側面でいうと、初めは仏像もなかったが、日本では釈迦も観音も毘沙門天も、実に様々な仏教美術として開花している。各地域でそれぞれの文化と融合していった仏教の奥深さ、柔軟さを感じる。(京都新聞)

武道

鎖がま、分銅など日本古来の武器を使う武道も奥が深いでしょう。「武器それぞれに動きの形があり、奥が深い」と魅力を語る。(狩野久男)

伏見の風情

古くから酒造りの町として栄えた伏見 奥深い風情をたたえたこの地 (清和荘)

フライフィッシング

フライフィッシングは服装や道具といった見た目の格好良さが先行しがちだが、本当に奥が深い釣りなんですよ。(坂上圭一)

保育

保育新システム、幼保一体化など、保育をとりまく環境が変化する中で、保育の原点は何かを考えているうち、保育は奥が深いということが分かり、今年は保育士の国家試験にチャレンジしました。(瀬戸野喜雄)

ボッチャの駆け引き

ボッチャは、重度の身体障害者も参加できるよう考案された競技。(中略)「おそらく最もバリアフリーなスポーツ。車いすのベテラン選手と試合して、全く歯

が立たなかったこともあり、駆け引きも奥深い」(田中康隆)

ボルダリング

意外と頭を使わないとゴールまでいけないだ、体力だけじゃないんだってわかってくれたみたいで。会議室でどうしてもクライミングを体験させたいという依頼がありまして。でも壁を持ってくるわけにもいかず、今度は紙を壁に貼ってやってみようと思いついたんです。やったことのない方に、そういう(ボルダリングの)奥深さがあるのを伝えたい。ただの力持ちのおねえちゃんじゃないんだと。(尾川智子)


女優・佐藤江梨子が、「本の奥深い世界」を4回にわたって旅する。(NKKE

盆梅

一年やってみて、盆梅の奥深さを実感します。(山田朋美)

メダカ

「(メダカは)突然変異が起こりやすく、新種や珍種が生まれ、コイや金魚のように奥が深い」と魅力を話す。(小林義幸)

水玉

もっとも、ひと口に水玉といっても、表現の仕方によってはなかなか奥深いものがあります。(村上ケイ)

ラージボール

1987年に卓球の底辺拡大のため考案されたラージボールの愛好家で、「やればやるほど奥深さを実感する」と(藤岡正夫さんは)力を込めます。(京都新聞)

落語

落語って演者によってこんなに味わいが違うのか。同じ噺なのに何遍聴いてもおもしろく、また、同じ噺なのに演者それぞれの工夫があり、おもしろみがある。うーん、奥が深い。(中野翠)

料理

料理の奥深さに気づき、スーパーで知らない食材を見つけると店員に調理方法を聞くようにもなった。(京都新聞)

      衝撃でした。こんなに奥の深い料理があるのかと気づき、これは食べなあかん、と。(関谷江里)

歴史と伝統

私の中にある「文化の心」。それは、奥深い歴史や伝統、美しい自然、人々の優しさや温もりに感動し、その気持ちを表現したいと願う「こころ」であると思います。(門川大作)

和の稽古事

   やっぱり和の稽古事は奥が深いですね。(牧瀬理穂)
 
 

   

ふぅ~。このように並べてみると「奥が深い」という言葉も実に奥

が深い。とシャレるより、奥が深くないものを挙げてみろ、とツッ

コミたくなります。こうも無数に出てくるとこれを越える表現は屋

上屋をかさねるしかありません。

京都嵐山吉兆の玄関のある扁額に書かれた文字は「玄之又玄」、「奥深い上にも奥深いものがある」という意味だそうです。    (『婦人画報』)

   

 人は誰も(かくいう私も例外ではなく)自分に関係することは自慢に思っています。吹聴とまではいかなくても機会があれば開陳してみたい。そして最後に、「ええ、奥が深いんです」と高らかに締めくくりたい。だからあちこちでこの言葉を耳にするのでしょう。

こうなったら、手あかのついたクリシェは使わない! と別の言葉で言い換える御仁もいる。

   「酵母は味も香りもアルコールも作る。多様な面があり、知れば知るほど分からないんです」。入社から一貫して酒造りの基礎となる酵母や麹の働きを研究している。いまだに解明されていないことも多く、興味が尽きない。(堤浩子)

      不思議な求愛行動をはじめ、ほかにも特徴は多く、イモリは「観察を続けるほどに発見のある生き物です」(上田裕)

   柳家三三さんが好きなのは天守閣のそびえている近世以降の城ではなく、戦国時代に築かれた「中世城郭」なのだそうだ。従って、現在残っているのは土塁と溝ぐらいのもので、「中世城郭フェチ」は草生した土塁や溝を眺めては「いいなあ、この風情」と感涙にむせぶのだという。天主閣や城跡をながめて喜んでいるようなシロートには手の届かない、深い深い世界なのである。(小佐田定雄)

少しばかり聞き飽きてきた言葉ももっとシンプルな言葉をさがして言い直せば聞き手も素直に頷けます。結論としておよそ人間の営みのなかで奥が深くないものはない、と言い切ってしまいましょう。

   なんたって「ホッ、ホッ。私みたいな完ぺき人間でも、たまに間違いを起こすんですね。いやぁ、おおきにぃ!」。そう、失敗があるから、人生は奥深い。(木村幸治)

 

やはり一番奥が深いのは人生ですよ。やはり。