2013年3月11日月曜日

すぐれて

ある本の書評の一節です。

   サミットをはじめ首脳同士の食事は単なる会食ではない。著者の表現を借りれば「饗宴はすぐれて政治である」。

さてこの「すぐれて」を手元の国語辞典で引きました。

   特に、とりわけ。「すぐれて外交的な問題」(明鏡)

   他の要素をさしおいて第一に取り上げるべきだと判断される様子。
   「すぐれて政治的な問題」(新明解)

次にgoo辞書です。

   特別に。とりわけ。きわだって。「すぐれて民主的な憲法」

三省堂大辞林です。

   きわだって。特別に。とりわけ すぐれてな政治的な問題」

おやおや、またもや政治的な文脈の用例です。どうして、みんな右へ倣へしてしまうのでしょう。うんざりします。こんなことだから、世界でジョークのネタにされるのです。

   客船が火事になった。海に飛び込むのをためらっているイギリス人に「女王陛下の命令だ」と言うと飛び込んだ。イタリア人には「海で女が待っている」。フランス人には「飛び込むな」。日本人には「皆飛び込んだぞ」

 
 

気を取り直してもっと調べてみましょう。三省堂大辞林にはもう一例あり

すぐれて幅のある鍔の兜帽(ヘルメツト)を戴き(魯庵)

やっと政治の用例からはなれましたが、出典が古すぎます。

 

辞典には失望したのでしばらく読書のおりに注意して読んでいると、いくつか見つけました。佃島お祭りは古い伝統をもっているが、月島のお祭りでは神輿をかつぐ掛け声など統一された規則はない、というくだりで

   これは予想していなかったことでいくぶん驚きであったが、考えようによっては月島という町の性格を優れて語っているのかもしれない。
                      (四方田犬彦『月島物語』

つづいて次は新聞の書評欄にありました。

   尾行とは、優れて小説的な主題である。(作家 佐川光春)

そして友人が『岩波国語辞典』の用例を知らせてくれました。

   「ゲームの理論は優れて実践的な科学だ」(岩波国語)

このようにさまざまな文脈で使われるのに、国語辞典が似たりよったりの用例を並べているのが、私の不満なのです。

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