2013年1月16日水曜日

カタカナ語 (二)


カタカナ語を考えるときに無視できないのは「どの程度の語」まで使うかです。相手があっての言葉ですから、書き手は聞き手を意識して使う配慮が必要です。次も地方紙の読者投稿です。


   人間が幸か不幸かのメクルマール(指標)はいろいろあるだろう。しかし、パスカルがいうように、気を紛らわしてくれるちょっとしたもの、それがそのメクルマールの一つであることは間違いないだろう            (京都新聞)

 

 先の「議員は平易な日本語を」の投稿氏は、限られた分野ではなく一般大衆を視聴者にした場面でのカタカナ語使用を戒めているのでしょう。けれども、このくらいのカタカナ語は一般的に理解されているとみなしている場合もあります。

 
   若貴が番付を上げて若きヒーローとして名声を上げていく一方、曙はそれに立ちふさがるヒールという立場に無理矢理仕立て上げられた感がありますが、本人のキャラクターはそういうものとは程遠いものでした。            (「やくみつるの相撲少年」)
 

書き手は高校生でもヒーロー、ヒール、キャラクターは知っていると判断しているので
しょう。もう一度別の投稿を引用します。

 
    先日のNHKニュースでは、アナウンサーが説明なしで「コンプライアンス」という言葉を使い、別の日には「フルーツ」といったりしていた。「法令順守」と話してもらえば分かりやすく、「フルーツ」と言わずに「果物」と言えばいいと思った。
    片仮名の言葉を使うことが流行しているようで、そうすることが格好よいというような風潮である。しかし、片仮名の言葉には、意味を説明されないと分かりにくいものも多い。また、安易な片仮名使用は、言葉を軽くしているようにも思える。
    それぞれの日本語には、その背景に日本の歴史や文化や生活がある。それを用いず、安易に片仮名の言葉を使うことは、物事を丁寧に考えることを避けているように感じられる。                                       (京都新聞)

 
カタカナに戸惑うのは、知らないからです。それは漢字でも同じです。例えば、次は新聞の記事です。

 
   「政府は核実験とがん発症の関連立証の難しさを奇貨として、長年健康被害を認めてこなかった。ベリル事故の失敗を初めて認めたのは06年だ。」フランス中部リヨンの市民団体「軍備監視所」の代表、パトリス・ブベレは、訴えが却下され続けた背景を説明する。(軍司泰史 京都新聞)

 
この「奇貨」はめったに出会いません。広辞苑には

    利用すれば意外の利を得る見込みのある物事や機会。「経済不況を奇貨として
       低価格商品を開発する」

 
とあります。新聞の読者でどのくらいの人が知っているでしょう。この記事で「奇貨」とその意味をここでおぼえれば知識が増えます。コンプライアンスも「法令順守」のことだと覚えればよいのではないでしょうか。投稿者は、そうではなくそれを表す日本語が現に存在するのだから不要なカタカナ語だとおっしゃるのでしょう。
  でも、とあえてつけ加えます。「果物」と「フルーツ」は違います。私は親しい女性を訪問するときにはフルーツをおみやげに持って行きます。術後の先輩を病院に見舞うときは好物の果物を持って行きます。


 カタカナを使う方が効果的な時もあります。デパートのチラシです。
 
   パリのウイットあるエスプリをキーワードに、
   クローゼット感覚のショップ
   大人の女性のためのシンプルで
   ニュアンスのある普段着をご提案いたします。        SEIBU


仮に翻訳してみましょう。

パリの機知のある精神を重要語に
押入れ感覚の店
大人の女性のための簡素で
陰影のある普段着をご提案いたします。

 
どうですか。カタカ語の方が理解しやすくありませんか。
さらにカタカナ語にはノーテンキな自由さもあります。 

   バターをたっぷりと使って、洋菓子仕立ての味に。口どけのよい
自家製クッキーでアイスをサンドしました。(シャトレーゼ広告)


この「サンドする」おそらくサンドイッチから造語したのでしょう。パンの間に具をはさむのがサンドイッチ。そこから「はさむ」を「サンドする」とカタカナ語をつくったのでしょう。もちろんsandwich sand には「はさむ」という意味はありません。でも、サンドイッチから「クッキーでアイスをサンドする」とはなんて自由でのびやかな造語法でしょう。「サンドする」が日常的に使われていても日本語の「はさむ」が肩身の狭い思いをしているとは聞きません。さあ、ベーコン、レタス、明太子、サバの竜田揚げ、何でもサンドしちゃいましょう。手作りサンドと文庫本をバスケットに入れて散歩にでかけましょう。と言ったところで、大発見。多くの外来語が短縮されるのにサンドイッチは「お昼はサンドにしようかな」などとは言わないようです。でも、前につけて○○サンドはいっぱいあります。手作りサンド、ツナサンド。

 

カタカナ語ウオッチングは楽しいと思いませんか。
 次のような方もいらっしゃることを、カタカナ語の嫌いな方にお知らせしてこの項を
  閉じることにしましょう。投稿者は90歳の女性です。

           時代とともにカタカナ語が急速に増えていく気がする。先日も新聞の広告を見ていたら、ひらがな語を抜く勢いでカタカナ語が使われてびっくりした。アプリ、ナビゲート、アンドロイド…。初めて出会う言葉ばかりで、もちろん意味は分からない。思えば、年を重ねるごとにカタカナ語に弱くなるようだ。
 最近一般的に使われるようになった「アナログ放送」「地上デジタル」という言葉も、昨年末に薄型テレビを買うまで意味を知らなかった。店員さんにテレビ映像が映る原理を詳しく教えていただき、感動とともに理解できた。カタカナ語は、社会の進歩や風潮を反映して誕生するのならば、カタカナ語に強くなって、時代をしっかりと見つめたい。覚えた言葉は、ノートにちゃんと記録していきたいと思う。
                                                                                                  (京都新聞)


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