2013年1月21日月曜日

縮緬で失礼します


                            
 塩田丸男さんが岩井半四郎(十世)さんと、編集者の女性の3人でお酒を飲んでいました。塩田さんが編集者と話し込んでいると、半四郎さんが「縮緬で失礼しますが、お一つどうぞ」と銚子をかたむけた。

 この「縮緬で失礼します」が難しい。

「反物の寸法を測る時、ふつうは、布地の端を持って宙に高く上げ、布か地をピンと張った状態にして測ります。しかし布地が縮緬の時だけはそうしません。縮緬は文字どおり縮んでいるのが特徴で、ピンと張った状態で寸法を測ったのでは、仕上げが狂ってしまいます。そこで、縮緬だけは、布地を畳みの上に置いたまま寸法を測るのです。「置いたまま尺をとる」のでこれを「置き尺」と言います。「置き尺」と「置き酌」。発音がおなじですね。ですから歌舞伎の世界の人たちは「置き酌」のことを「縮緬」と言いうのです。この業界の隠語です。(塩田丸男『食べる日本語』

半四郎さんの真意は、「女性と話ばかりしてないで、少しは酒のつきあいもしなさいよ」といったところでしょう、と塩田さんは述べています。

粋な話ですね。
 
 

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