2012年9月21日金曜日

上海


 「シャンハイ」で「上海帰りのリル」を思い出す人はとうに還暦を過ぎているに違いない。あの歌の異国情緒に浸ってもよいが、英語の Shanghaiを手元の英和辞典を引いてみると、あっと驚くタメゴロー!(これも古い!)で、もうひとつ意味がある。

 
    shanghai 他動詞 (俗語)(古語)  (酒・麻薬・暴力で)〈人〉の意識を失わせて船に連れこんで水夫にする。
                       (ジーニアス大英和)


学習用英和辞典にも 「((略式・古))〈人〉を(だまして・無理に)~させる。」などと出ている。何ともはや恐ろしい。かつて上海ではこのような犯罪がまかり通っていたのろうか。まかり通っていたから「上海」という固有名詞がこのような意味で一般化されたのだろう。その事情を大文字のShanghai ではなく小文字の shanghai が物語っている。この動詞の「上海する」だが、ものの本によるともっと恐ろしいことが書かれている。


   通行人を暴力で船へ(さら)って来て出帆後陸上との交通が完全に絶たれるのを待って、過激な労役に酷使することを〈 Shanghai する と言って、世界の不定期船に共通の公然な秘密だった。罪悪の暴露を恐れて上海した人間に再び陸を踏ませることはけっしてなかった。絶対に日光を見ない船底のセイカツ、昼夜を分たない石炭車の労働、食物その他の虐待から半年と命の続く者はまれだった。 
                                      (谷譲次『上海された男』)

 
これは日本の推理小説。作者の谷譲次は、本名 長谷川海太郎。もう2つペンネームがあり、牧逸馬と林不忘。この3つの中では「丹下左膳」を書いた林不忘が有名。


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