2012年9月16日日曜日

ゾイリアの価値測定器 (Mensura Zoili メンスラ ゾイリ)


 
この器械のことを私は或る本で知った。それに依ると、
ゾイリア共和国のゾイリア大学の教授たちが考案。
小説や絵などをその上に置いてその価値を測定する。
額縁の価値や製本の稚拙も測定されてしまうが、
それは後で修正できる。
その目的は、外国から輸入される書物や絵の中で
無価値なものは絶対に輸入を禁止するため。
こういった類で一番心配されるのは、
この測定器の判定する評価が信用できるかどうか、
その保証があるのかだが、その点は大丈夫だという。
例えばモオパッサンの『女の一生』を載せてみれば針は
最高値を指す事からも証明できるという。


日本の名歌『赤とんぼ』を中国で小澤征爾氏が披露したところ、
その歌のどこが建設的なのだ、
と価値を認めてもらえなかったというエピソードが伝えるように、
文芸作品に絶対的価値などありはしない。
 
だから、ゾイリアの話には矛盾がある。
『女の一生』を最高傑作と評価したいならすればよい。
しかしそう評価することがこの器械が優れていることの証明には
ならないからである。
「Aは正しい、なぜならばAはBが正しいと認めるからである」
という論理には欠陥がある。Bが正しいことをCが証明しなければ、
自己撞着となるからである。まてよ、
そのCが正しいことを今度は何が証明し得るのだろうか? ・・・・・

 
 ゾイリアの価値測定器についてひとつ大切なことを忘れていた。
この測定器はゾイリア国の小説・絵画の価値測定をすることは
禁止されているそうである。その理由は国民がそう望んでいるから。


 この話はどうも胡散臭い。
ゾイリア国とこの器械について知りたい向きは『芥川龍之介全集』をどうぞ。
 
 

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