2012年9月6日木曜日

憧れる



「憧れる」という言葉の使い方の代表例は次でしょう。
 
    セレブに憧れる、平凡な主婦。
  

ところが次のような言い方があります。

「旅に出ます」書き置き机の上
   ハーモニカポケットに少しの小銭
   さよならの意味さえも知らないで
   ああ砕かれて手の平から落ちた
   あれはおれ16 遠い空を憧れてた路地裏で
      (浜田省吾作詞作曲『路地裏の少年』)


「を憧れる」とは普通言わないのではないでしょうか。
けれども、ここを「遠い空に憧れてた」ではどうもインパクトが弱い。
「に憧れる」が「正しい」日本語かもしれませんが、
ここはどうしても「を憧れる」でなくてはいけません。
次も「を」が毅然とした透明感を表わしています。

   廃墟はただ佇むことを憧れる
   若い太陽の下に
   意味もなく佇むためにのみ佇むことを
      (谷川俊太郎『六十二のソネット 12 廃墟』)

 

付記 「を憧れる」は『新明解』は「文法」欄で取り上げて
   「対象とする世界への到達を含意する傾向がある」としている。

『明鏡』では「を」の用法を「もと『異国情緒を憧れる』のように
他動詞にも使った」と注記している。

『岩波国語』は注記なし。
 
『てにをは辞典』は現代作家の作品も多数調査しているのだがすべて「に」の用例で「を」の用例はない。
 
 
 
 

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